新種のヒトデ発見:日本の海から姿を現した「ホウエイミヤビモミジヒトデ」

新種のヒトデ発見:日本の海から姿を現した「ホウエイミヤビモミジヒトデ」

日本の研究者らが、51年ぶりとなるモミジヒトデ科の新種を発見しました。この画期的な発見は、東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所、新江ノ島水族館、ふくしま海洋科学館、山口県水産研究センターの研究者たちの協力によって実現しました。
新種のヒトデは「Paragonaster hoeimaruae(パラゴナスター・ホウエイマルアエ)」と学名が付けられ、和名は「ホウエイミヤビモミジヒトデ」とされました。この種はモミジヒトデ科(学名: Pseudarchasteridae)に属し、均整の取れた赤く美しい体をもっています。体の大きさは約10センチメートルで、5本の腕を持ちます。
この研究は「Journal of Natural History(自然史ジャーナル)」に掲載され、海洋生物学の分野に大きな貢献をもたらしました。

ホウエイミヤビモミジヒトデ

ヒトデは棘皮動物に分類されます。この言葉は古代ギリシャ語に由来し、「ハリネズミの皮」という意味を持ちます。ヒトデには多くの種類がありますが、この特定のヒトデは砂や泥の多い水域での生活に特に適応しており、研究者たちはこの特徴についてさらに詳しく知りたいと考えています。クレジット: I. Kobayashi

モミジヒトデ科は、ブロック状の骨に縁取られた扁平な体をもち、管足の先端が吸盤状であることが特徴です。以前はゴカクヒトデ科の一員と考えられていましたが、近年の遺伝学的研究により別の分類群であることが明らかになりました。この発見は、海洋生物の分類体系の再考を促し、進化の過程をより正確に理解する上で重要な役割を果たしています。
研究チームは2021年から2023年にかけて、日本各地で様々な種を収集しました。北海道と静岡県の漁師が使用するエビやカニのかごや、山口県の水産研究船が行った桁網調査(海底を大きな網で引きずる調査方法)で集められました。新種のヒトデの名前「ホウエイ」は、最初に標本を採取した漁船「豊栄丸(ほうえいまる)」にちなんでつけられました。この協力的な調査方法は、科学研究と地域産業の連携の重要性を示しています。
研究チームは、新種の発見に加えて、3種のモミジヒトデ科の新産地も報告しました。特に注目すべきは、北海道羅臼町で発見された「ダイオウモミジヒトデ属」です。この属はこれまでアメリカ西海岸からベーリング海でしか報告例がなく、日本での発見は初めてとなります。ダイオウモミジヒトデ属は直径約30センチメートルという驚くほど大きなヒトデです。この発見は、海洋生物の分布範囲や移動パターンに関する従来の理解を覆し、気候変動が海洋生態系に与える影響を研究する上で重要な手がかりとなる可能性があります。
東京大学三崎臨海実験所の小林格学術専門職員は次のように述べています。「日本周辺には約250種のヒトデが生息していますが、このような大型種が見過ごされていたことは、海洋生物の多様性理解がいかに不十分であるかを示しています。この発見は、私たちの海洋生態系に関する知識にまだ大きな隙間があることを明確に示しています。」
この発見により、日本産のモミジヒトデ科は6種に更新されましたが、研究者たちは今後もさらなる種が発見される可能性があると考えています。これは、海洋生物多様性の豊かさを再認識させるとともに、未知の種を保護する重要性を強調しています。
モミジヒトデ科が属するモミジガイ目は、砂泥環境に適応した特殊なグループですが、その適応進化の歴史についてはまだ不明な点が多くあります。今回の研究は、ヒトデの進化に関する新たな側面を明らかにする基礎を提供することが期待されています。特に、砂泥環境への適応メカニズムの解明は、海洋生物の環境適応能力の理解を深め、気候変動下での生物の生存戦略を予測する上で重要な知見をもたらす可能性があります。
この研究は、漁業関係者、水族館、大学、その他の研究機関が協力して海洋生物多様性をより良く理解することの重要性を示しています。異なる専門知識や経験を持つ人々の協力が、こうした画期的な発見につながることを実証しており、今後の海洋研究のモデルケースとなる可能性があります。
今回の発見は、私たちに海洋研究の継続的な重要性を再認識させるものです。気候変動や海洋汚染など、海洋環境は様々な脅威に直面していますが、そのような中で新種が発見されたことは、海の中にはまだ多くの未知の生命が存在することを示唆しています。これは、海洋保護区の設定や持続可能な漁業方法の開発など、海洋保護政策の重要性を裏付ける科学的根拠となるかもしれません。
この研究は、私たち一人一人が海洋環境の保護に関心を持ち、行動することの重要性も示唆しています。新種の発見は、私たちがまだ十分に理解していない海洋生態系の複雑さを物語っており、その保護の必要性を強調しています。また、一般市民による海洋生物観察や報告の重要性も示唆しており、市民科学の可能性を広げています。
まとめ
この発見は科学の魅力と重要性を再確認させるものでもあります。新しい発見は、私たちの世界に対する理解を深め、さらなる探求への意欲を刺激します。海の中にはまだまだ多くの謎が残されており、それらを解き明かしていく過程は、私たちに驚きと感動を与え続けることでしょう。同時に、この研究は若い世代の科学者や海洋生物学者にインスピレーションを与え、将来の海洋研究の発展に寄与することが期待されます。
この新種のヒトデの発見は、単なる生物学的な新知見にとどまらず、海洋生態系の理解、環境保護、科学研究の方法論、そして私たちの海洋との関わり方に至るまで、幅広い影響を与える重要な出来事なのです。

More information: Itaru Kobayashi et al, Pseudarchasteridae (Asteroidea: Paxillosida) in Japanese waters, with description of a new species and range extension of three species, Journal of Natural History (2024). DOI: 10.1080/00222933.2024.2377336
Journal information: Journal of Natural History
Provided by University of Tokyo